「冷静と情熱のあいだ」がいかに心に染みるかを説きながら、男の女々しさについて熱弁をふるう友達にプリンを奢られる。
「言わば俺さまは最初の女からすべて引きずっているのだ」と甘ったるい熱弁にうんざりしながら、同じく甘ったるいプリンを啜って街を見る。
雪どけ。
春になると決まって思い出すのは、初めて北海道に来た日の事です。四月の陽光の中、半袖で汗して荷造りをした宮崎。やって来た北海道では、まだチラホラなごり雪が舞っていました。日本広えなと、それがこの街に来た第一印象です。
酪農地帯の見晴るかす草原に吹く、鋭利なまでに清冽な2℃の春風。郵便局は何処ですか?と訪ねて、まっすぐそこさねと言われそれから一時間歩いた、広大で何もなくて、身を切るように凛凛とした北国の春。
スプリングコートを風にはためかせ街ゆく兄ちゃんを観ながら、馬鹿じゃなかろかと友達に相槌うってたら、昔いっしょに暮らした男から八年振りにメールが来た。元気ですか?元気ですよ。幸せですか?幸せですよ。そういえばあんたに会えて良かったですよ、あたしもあんたに会えてどうやら人生良かったですとご挨拶して、またね、またねと言って、多分もう二度と会わない人とサヨナラした。
春になるとこんな便りがたまにくる。
かつてとても愛したものが、まだ何処かに生きていて、その生きている事を確認して、同じ春ではない事に絶望して、そしてまたやって来た違う春の中で微笑む。何のためにかはよくわからない。でもこの季節になると、何故だかそんな便りがある。
今こうやって街を歩いている人たちが、百年後はみんな死んじゃってるなんて耐えられないと泣いたら、ゆきえちゃん相変わらず頭おかしいねと、女々しい友達はもいっこプリンを奢ってくれた。
夜、夕飯をこさえてくれる相方に「最初の女から引きずってるなんて言うのよアホだよねえ」と話していたら、「案外ぼくも同んなじですよ」とカルボナーラを炒める背中が応える。
なるほど皆一様に
女々しく、女々しく春なのだと
眺める窓辺の雪は
あと幾晩のうちにすっかり溶けてなくなるだろう。
posted by bambora at 20:42|
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日記
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